低栄養によって、嚥下障害(飲み込みの問題)が生じることがあります。低栄養により、サルコペニア(筋肉量の減少)を引き起こし、それが嚥下障害を引き起こすこともあります。
低栄養になった場合は、栄養の改善と機能訓練が重要となります。1ヶ月で1kgの体重増加をするように攻めの栄養管理が必要となります。そのためには、1日のエネルギー蓄積量を250kcalにする必要があります。タンパク質(肉、魚、大豆、ブロッコリーなど)やn-6系多価不飽和脂肪酸(植物油、ナッツ類、胡麻、鶏肉、卵黄)およびn-3系多価不飽和脂肪酸(EPA、DHA、αーリノレン酸のことで、魚類、胡桃、エゴマ油など)も十分に摂取しましょう。水分も十分に摂取しましょう。さらに運動療法を行い、筋力も回復しなければならなりません。
栄養不足になると、筋肉や皮下脂肪がなくなるだけではなく、皮膚の異常がでたり、褥瘡が現れたり、傷が治りにくくなったり、浮腫が現れたり、光沢のない皮膚になったりします。
パーキンソン病やアルツハイマー病、COPDなど動きの増加がみられる病気や短腸症候群や下痢、嚥下障害など消化吸収能力の低下がみられる病気、侵襲や炎症がみられる病気は栄養不足となりやすいので注意が必要です。
サルコペニアの嚥下障害、脳血管疾患、大腿骨近位部骨折、がん、急性疾患では攻めの栄養管理が重要と言われています。
低栄養のスクリーニングアンケート
低栄養かもしれないと思っている方は下記のアンケートを試してみてください。
簡易栄養状態評価表MNA:Mini Nutritional Assessment-Short Form
氏名: カルテ番号: 日付: 年 月 日
性別: 男・女 年齢: 歳 体重: kg 身長: cm
下記の質問に答えて該当するものに◯をつけてください。
A 過去3 ヶ月間で食欲不振、消化器系の問題、咀嚼・嚥下困難などで食事量が減少しましたか?
0=著しい食事量の減少 1=中等度の食事量の減少 2 = 食事量の減少なし
B 過去3 ヶ月間で体重の減少がありましたか?
0=3 kg 以上の減少
1=わからない 2 = 1~3 kg の減少 3 = 体重減少なし
C 自力で歩けますか?
0=寝たきりまたは車椅子を常時使用
1=ベッドや車椅子を離れられるが、歩いて外出はできない
2=自由に歩いて外出できる
D 過去3 ヶ月間で精神的ストレスや急性疾患を経験しましたか?
0=はい 2=いいえ
E 神経・精神的問題の有無
0=強度認知症またはうつ状態 1=中程度の認知症 2=精神的問題なし
下記は当院のスタッフが測定致します。
F1 BMI
0=19 未満 1=19 以上、21 未満 2=21 以上、23 未満 3=23 以上
または
F2 ふくらはぎの周囲長(cm)(BMIが測定できない場合)
0=31cm未満 3=30cm以上
合計ポイントによる評価
- 12-14 ポイント 栄養状態良好
- 8-11 ポイント 低栄養のおそれあり
- 0-7 ポイント 低栄養
下記のアンケート用紙をダウンロードしてお使いください。
SGA (Subjective Global Assessment)
- 病歴・栄養歴
- 体重変化
過去6カ月間の体重減少量
kg,減少率 %
過去2週間の変化 口増加 口不変 口減少
2.通常と比較した食事摂取量の変化(平常時との比較)
ロ不変 ロ変化あり
変化の期間 週
食種:口固形食 口液体食(高エネルギー)口水分 口絶食
- 消化器症状(2週間以上持続)
ロなし 口嘔気 口嘔吐 口下痢 口食欲不振
- 身体機能(活動性)
機能制限
ロなし ロあり
持続期間 週
種類:口日常生活可能 口歩行可能 ロ座位可能 ロ寝たきり
5.栄養要求量に関係する疾患
初期診断
代謝亢進(ストレス):口なし口軽度口中等度口高度
B.身体所見(それぞれ=正常、1+=軽度、2+=中等度、3+=重度で評価)
皮下脂肪の減少(上腕三頭筋部,側胸部)
骨格筋の減少(大腿四頭筋,三角筋)
下腿(踝部)浮腫
仙骨部浮腫
腹水
- SGA評価
ロA=良好 ロB=中等度低栄養(または低栄養疑い)口C=重度低栄養
小児も利用可能です。下記のアンケート用紙をダウンロードしてお使いください。
低栄養診断GLIM(Global Leadership initiative on Malnutrition) 基準
表現型 以下の1つ以上に該当
体重減少:6か月で5%以上
低BMI:18.5未満、70歳以上は20未満
筋肉量減少
原因 以下の1つ以上に該当
食事摂取量減少・吸収不良:50%以上が1週間以上
炎症:急性・慢性
必要タンパク質量
タンパク質をしっかり摂りましょう。
窒素平衡維持量は0.65g/kg体重/日です。窒素平衡維持量とは体内の窒素のバランス(窒素平衡)を維持するために必要な窒素の量です。体内に入ってくる窒素と体外に出ていく窒素の量が等しくなる状態です。窒素は主にタンパク質の形で体内に存在し、タンパク質はアミノ酸から成り立っています。私たちが食事から摂取するタンパク質は消化・吸収されてアミノ酸となり、体内のタンパク質合成やエネルギー供給などに使われます。余分な窒素は尿や便、汗などを通じて排出されます。
日本人の食事摂取基準では0.65÷0.9(消化吸収率)×1.25(個人差作動)=0.9g/kg /日を推奨量としています。
食欲不振などで食事量が減少すると、タンパク質からエネルギーを補給するため、たんぱく質必要量は増加します。成長期、妊娠中、授乳中、感染・外傷・ストレスがある場合、たんぱく質必要量は増加します。
必要エネルギーの推定
必要エネルギーは基礎代謝だけではなく、活動状態やストレスの状態にも関わります。参考程度に下記の内容をご覧ください。
必要エネルギー量=基礎代謝量×活動係数×ストレス係数
活動係数 寝たきり1 半臥床1.2 歩行可能1.3
ストレス係数 手術1.1〜1.4 発熱 37℃を1℃超える毎に1.3
基礎代謝エネルギーの推定式
①基礎代謝基準値(BMI18.5〜25の場合)(日本人の食事摂取基準2015年版)
推定式(kcal/日):基礎代謝基準值×W(基礎代謝基準値:50歳以上の男性 21.5 50歳以上の女性 20.7)
② 国立健康・栄養研究所の式
[0.0481×W+0.0234×H-0.0138×A- 定数(男性0.4235、女性0.9708)〕✕1000/4.186
③ Haris- Benedictの式
男性:66.4730+13.7516×W+5.0033×H一6.7550×A
女性:655.0955+9.5634×W+1.8496×Hー4.6756×А
W:体重(kg)、H:身長(cm)、A:年齢(歳)
日本人を対象に基礎代謝推定式の誤差を算定した研究では、①や②式は③式よりもBMI3程度までであれば、誤差が少ないことが報告されています。
必要脂質量
必須脂肪酸である、n-6系多価不飽和脂肪酸およびn-3系多価不飽和脂肪酸の不足が起こらないように考慮します。
n-6系多価不飽和脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸。植物油。ナッツ類、ごま、鶏肉、卵黄)が欠乏すると、皮膚の荒れから皮膚炎に進展します。n-6系多価不飽和脂肪酸が欠乏を防ぐために、リノール酸(植物油)をエネルギー比で2%は確保します。
n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA、DHA、α―リノレン酸。魚類、くるみ、エゴマ油)が欠乏すると、皮膚炎や創傷治癒の遅延が起こります。n-3系多価不飽和脂肪酸の欠乏を防ぐために、αーリノレン酸(大豆、マグロ)をエネルギー比で0.5~1.0%は確保します。
食事で摂取する場合には、摂取エネルギーの20%を脂質から摂取すれば、必須脂肪酸の不足の可能性は低くなります。
水分の確保
嚥下障害者のリスクの1つに脱水があります。脱水にならないためには、必要な水分を確保する必要です。体重1keあたり成人では40〜50ml、高齢者では30~40ml程度が必要です。上記の計算値に、食物由来の水分量が含まれます。水分として、約1ℓ(リットル)/日以上が必要となる場合が多いです。ただし、心臓病・浮腫などで水分制限がある場合には、その指示に従ってください。
水分が不足すると、皮膚や粘膜が乾燥してきたり、皮膚緊張度が低下したりします。口が渇くこともあります。口が渇く感覚がなくなる認知症や脱水をきたしやすい糖尿病の方は要注意です。
その他の栄養素の評価
ビタミン・ミネラルが欠乏すると、脱毛、歯肉出血、血色がない爪がみられます。十分量を摂取するようにしましょう。
引用
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会ホームページ