低栄養が招く「飲み込み」のトラブルと、改善へのステップ
「食べられない」から「もっと動けない」の悪循環を防ぐ 栄養不足が続くと、全身の筋肉が落ちる「サルコペニア」という状態になります。実は、喉の筋肉も例外ではありません。喉の筋肉が衰えると、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる「嚥下(えんげ)障害」を引き起こしてしまいます。
これを防ぎ、改善するためには、リハビリなどの訓練だけでなく**「攻めの栄養管理」**が不可欠です。
1. 目標は「1ヶ月で体重+1kg」
体を回復させるためには、1日あたりプラス250kcalのエネルギー蓄積を目指しましょう。
2. 積極的に摂りたい栄養素
筋肉の材料となるタンパク質と、良質な油(脂肪酸)をバランスよく摂ることが大切です。
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タンパク質: 肉、魚、大豆製品、ブロッコリーなど
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良質な油(n-6系・n-3系): 植物油、ナッツ、魚(EPA・DHA)、エゴマ油など
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水分: 脱水を防ぐため、こまめな補給を心がけましょう。
3. 「栄養」と「運動」はセットで
栄養を摂るだけでは筋肉になりにくいため、あわせて運動療法(リハビリ)を行い、筋力の回復を促します。
必要タンパク質量
先ほどの「低栄養」の話に続く、非常に重要なタンパク質についての解説ですね。専門用語(窒素平衡など)を、一般の方でもイメージしやすい言葉に置き換えて整理しました。
ホームページの構成に合わせて、以下の2つのスタイルから選んでみてください。
体をつくる「タンパク質」をしっかり摂ろう!
タンパク質は、私たちの体(筋肉や皮膚、内臓など)をつくる大切な材料です。体の中では、常に「新しいタンパク質が作られ、古いものが排出される」というサイクルが繰り返されています。
1. 「出入り」のバランスを保つのが基本
タンパク質には窒素が含まれています。
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入る量: 食事から摂るタンパク質
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出る量: 尿や汗、便として排出される成分 この「入る」と「出る」が同じ量でバランスが取れている状態を「窒素平衡(ちっそへいこう)」と呼びます。このバランスが崩れて「出る量」が多くなると、体内の筋肉などが削られてしまいます。
2. 1日に必要な量は?
健康を維持するために、国(日本人の食事摂取基準)が推奨している目安は以下の通りです。
推奨量:体重 1kg あたり 約0.9g (例:体重60kgの人なら、1日約54g)
※計算の根拠:体格の個人差や、食べたものが100%吸収されないことを見越して、最低限必要な量(0.65g)に余裕を持たせて計算されています。
3. こんな時は「もっと」タンパク質が必要です
普段よりも多くのタンパク質を必要とする場面があります。
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食欲がない時: エネルギー不足を補うために、体のタンパク質が削られやすくなります。
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体が成長・変化する時: 成長期、妊娠中、授乳中など。
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体がダメージを受けた時: 怪我、感染症、手術、強いストレスがある時。
健康を支える「良質な油」の摂り方
「油」は、私たちの体をつくる細胞膜の材料になったり、ホルモンのバランスを整えたりする大切な栄養素です。特に、体の中で作ることができない**「必須脂肪酸」**をバランスよく摂ることが重要です。
1. 2つの「必須脂肪酸」とその役割
油には大きく分けて、**「n-6系」と「n-3系」**の2つのグループがあります。これらが不足すると、皮膚のトラブルや傷の治りの遅れにつながります。
| グループ名 | 多く含まれる食材 | 不足した時のサイン | 摂取の目安(1日のエネルギー比) |
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n-6系
(リノール酸など) |
植物油、ナッツ類、ごま、鶏肉、卵黄 | 肌荒れ、皮膚炎 | 2%以上 |
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n-3系
(EPA、DHAなど) |
魚類(マグロ等)、くるみ、エゴマ油、大豆 | 皮膚炎、傷が治りにくい | 0.5 ~ 1.0% |
2. 「脂質不足」を防ぐためのポイント
「エネルギー比◯%」と言われると難しく感じますが、日常生活では以下のことを意識するだけで、不足のリスクをぐっと下げることができます。
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全体の目安: 1日に必要なエネルギーのうち、約20%を脂質から摂るようにしましょう。
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調理の工夫: お肉だけでなく、お魚(n-3系が豊富)を週に数回取り入れたり、サラダにエゴマ油やナッツを少し加えたりするのがおすすめです。
なぜ「油」が大事なの?
特に高齢の方や低栄養の方は、皮膚が弱くなりがちです。良質な油をしっかり摂ることで、皮膚のバリア機能を高め、床ずれ(褥瘡)などのトラブルを防ぐ強い体をつくることができます。
健やかな毎日のための「水分」と「栄養」
嚥下障害(飲み込みにくさ)がある方にとって、エネルギーと同じくらい大切なのが**「水分」と「ビタミン・ミネラル」**の管理です。体が乾いたり、栄養のバランスが崩れたりすると、回復のスピードも遅くなってしまいます。
1. 1日に必要な水分量はどれくらい?
水分は飲み物だけでなく、食事(汁物や食材の水分)からも摂取されます。目安として、1日に**「飲み物として1リットル以上」**を目指すのが一般的です。
体重あたりの目安
あなたの体重に合わせて、必要な水分量を計算してみましょう。
| 対象 | 体重1kgあたりの必要量 | 例:体重50kgの方の場合 |
| 成人 | 40 ~ 50ml | 2,000 ~ 2,500ml |
| 高齢者 | 30 ~ 40ml | 1,500 ~ 2,000ml |
【注意!】
上記の数値には「食事に含まれる水分」も含まれています。
ただし、心臓病やむくみ(浮腫)などで医師から水分制限の指示が出ている場合は、必ずその指示を最優先してください。
2. 脱水のサインを見逃さないで!
特に以下のようなサインがある場合は、水分が不足している可能性があります。
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見た目の変化: 皮膚や口の中の粘膜がカサカサに乾燥している
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肌のハリ: 皮膚を軽くつまんだとき、跡が戻りにくい(皮膚緊張度の低下)
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体感: 口の渇きを感じる
⚠️ 特に注意が必要な方
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認知症の方: 「喉が渇いた」という感覚自体が弱くなっていることがあります。
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糖尿病の方: 体の仕組み上、脱水を起こしやすい傾向があります。
周りの方がこまめに水分を勧めるなど、意識的なサポートが必要です。
3. ビタミン・ミネラルも忘れずに
エネルギーやタンパク質が「体の燃料や材料」だとしたら、ビタミン・ミネラルは「体をスムーズに動かすための潤滑油」です。不足すると、体には以下のような小さなトラブルが現れ始めます。
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髪の毛: 抜け毛が増える(脱毛)
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歯ぐき: 歯みがきなどの際に出血しやすくなる(歯肉出血)
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爪: 血色が悪い、または白っぽくなる
これらは「なんとなく調子が悪い」で見過ごされがちですが、体が栄養不足を訴えているサインです。肉・魚・野菜をバランスよく、難しい場合は栄養補助食品なども活用して、十分な量を摂取しましょう。
低栄養のスクリーニングアンケート
低栄養かもしれないと思っている方は下記のアンケートを試してみてください。
簡易栄養状態評価表MNA:Mini Nutritional Assessment-Short Form
氏名: カルテ番号: 日付: 年 月 日
性別: 男・女 年齢: 歳 体重: kg 身長: cm
下記の質問に答えて該当するものに◯をつけてください。
A 過去3 ヶ月間で食欲不振、消化器系の問題、咀嚼・嚥下困難などで食事量が減少しましたか?
0=著しい食事量の減少 1=中等度の食事量の減少 2 = 食事量の減少なし
B 過去3 ヶ月間で体重の減少がありましたか?
0=3 kg 以上の減少
1=わからない 2 = 1~3 kg の減少 3 = 体重減少なし
C 自力で歩けますか?
0=寝たきりまたは車椅子を常時使用
1=ベッドや車椅子を離れられるが、歩いて外出はできない
2=自由に歩いて外出できる
D 過去3 ヶ月間で精神的ストレスや急性疾患を経験しましたか?
0=はい 2=いいえ
E 神経・精神的問題の有無
0=強度認知症またはうつ状態 1=中程度の認知症 2=精神的問題なし
下記は当院のスタッフが測定致します。
F1 BMI
0=19 未満 1=19 以上、21 未満 2=21 以上、23 未満 3=23 以上
または
F2 ふくらはぎの周囲長(cm)(BMIが測定できない場合)
0=31cm未満 3=30cm以上
合計ポイントによる評価
- 12-14 ポイント 栄養状態良好
- 8-11 ポイント 低栄養のおそれあり
- 0-7 ポイント 低栄養
下記のアンケート用紙をダウンロードしてお使いください。
SGA (Subjective Global Assessment)
- 病歴・栄養歴
- 体重変化
過去6カ月間の体重減少量
kg,減少率 %
過去2週間の変化 口増加 口不変 口減少
2.通常と比較した食事摂取量の変化(平常時との比較)
ロ不変 ロ変化あり
変化の期間 週
食種:口固形食 口液体食(高エネルギー)口水分 口絶食
- 消化器症状(2週間以上持続)
ロなし 口嘔気 口嘔吐 口下痢 口食欲不振
- 身体機能(活動性)
機能制限
ロなし ロあり
持続期間 週
種類:口日常生活可能 口歩行可能 ロ座位可能 ロ寝たきり
5.栄養要求量に関係する疾患
初期診断
代謝亢進(ストレス):口なし口軽度口中等度口高度
B.身体所見(それぞれ=正常、1+=軽度、2+=中等度、3+=重度で評価)
皮下脂肪の減少(上腕三頭筋部,側胸部)
骨格筋の減少(大腿四頭筋,三角筋)
下腿(踝部)浮腫
仙骨部浮腫
腹水
- SGA評価
ロA=良好 ロB=中等度低栄養(または低栄養疑い)口C=重度低栄養
小児も利用可能です。下記のアンケート用紙をダウンロードしてお使いください。
低栄養診断GLIM(Global Leadership initiative on Malnutrition) 基準
表現型 以下の1つ以上に該当
体重減少:6か月で5%以上
低BMI:18.5未満、70歳以上は20未満
筋肉量減少
原因 以下の1つ以上に該当
食事摂取量減少・吸収不良:50%以上が1週間以上
炎症:急性・慢性
必要エネルギーの推定
必要エネルギーは基礎代謝だけではなく、活動状態やストレスの状態にも関わります。参考程度に下記の内容をご覧ください。
必要エネルギー量=基礎代謝量×活動係数×ストレス係数
活動係数 寝たきり1 半臥床1.2 歩行可能1.3
ストレス係数 手術1.1〜1.4 発熱 37℃を1℃超える毎に1.3
基礎代謝エネルギーの推定式
①基礎代謝基準値(BMI18.5〜25の場合)(日本人の食事摂取基準2015年版)
推定式(kcal/日):基礎代謝基準值×W(基礎代謝基準値:50歳以上の男性 21.5 50歳以上の女性 20.7)
② 国立健康・栄養研究所の式
[0.0481×W+0.0234×H-0.0138×A- 定数(男性0.4235、女性0.9708)〕✕1000/4.186
③ Haris- Benedictの式
男性:66.4730+13.7516×W+5.0033×H一6.7550×A
女性:655.0955+9.5634×W+1.8496×Hー4.6756×А
引用
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会ホームページ
