認知症が食に与える影響

現在、65歳以上の約16%が認知症であると推計されていますが、80歳代の後半であれば男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症であることが報告されています。認知症にはアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症があります。アルツハイマー型認知症は、食べる動きの障害が生じます。まだらな認知機障害が生じる血管性認知症は、病気が起こった時が一番悪い状態で、自然回復していき嚥下機能(飲み込み)も訓練により改善します。パーキンソン病に似たレビー小体型認知症は誤嚥(飲み違え)を始めとする摂食嚥下障害が生じます。前頭側頭型認知症では、過食や窒息が問題となります。

認知症であるかどうかの判断

認知症であるかどうかは医師の診断が必要となりますが、認知機のテスト(改訂長谷川簡易知能評価(HDS-R)HDS-R 8 資料)を行い、判断能力があるかどうか確認できます。ご家族にお話を聞いたり、かかりつけ医に話を伺ったり、成年後見制度を利用されているかも伺います。

認知症の方への歯科治療

歯科治療が認知症の方に対して、どのように日常生活の改善に関わることができるかを説明していきます。

口腔機能低下症(オーラルフレイル)予防食生活指導・歯の喪失予防は認知症の重症化予防につながります。

口腔機能低下症の治療は改善トレーニング(機能訓練)や口腔衛生指導を行います。

低栄養は生命予後や日常の動作に大きく関わります。したがって、バランスの良い食事が大事になります。

歯科治療計画を立てる際には、心理的・社会的状況を踏まえた上で、家族の同意を得ることが大事になります。信頼関係を維持し、治療を継続していくことが重要となります。可能な限り通常の歯科治療を検討します。

通常の根面齲蝕(歯の根のむし歯)の治療が難しい場合には、口腔清掃の後に、虫歯の進行抑制目的でサホライド(フッ化ジアンミン銀)を用いることがあります。虫歯のところが黒くなり、粘膜は一時的に白くなります。感染を抑えるため、あるいは、入れ歯やブリッジを作るため、抜歯をすることもあります。

入れ歯は形は同じで材料を新しくするコピー入れ歯を自費で製作することもできます。形が変わらないため、適応しやすいです。新しい入れ歯を作る目安は、洋服を自分で着替えられるかを確認します。

入れ歯は紛失、取り違えを防止するため、名前を入れておくと良いです。当院では新製作した入れ歯には、無料で名前を入れるサービスを行っています。

入れ歯の衛生管理は介護者にお願いすることになります。

認知症の方とのコミュニケーション

認知症の方にはゆっくり、はっきり、簡潔に話したり、短い文章で伝えることが有効です。言葉で伝わらなければジェスチャーで模倣してもらうと良いです。コップや食具などを手に持たせることで、習慣的行動を誘導しましょう。対応の心得として、驚かせない、自尊心を傷つけない、急がせないこともが重要です。本人に寄り添い、本人の意思を汲み取るよう意識することが重要です。環境に影響されて、本来の機能が発揮できないことがありますので、食事の際には、壁際で一人で食事し、一度に配膳する品数を減らすなど、混乱する情報となるものは減らしましょう。赤色の食具は認知しやすいようです。また、多職種の力を借りましょう。

治療の目標

重度の方の人生の最終段階では、本人の望む少量の食事を口で摂ってもらい、肺炎を予防し、快適な口腔内を保つことを目標とします。