次世代シークエンサーを用いた口腔細菌叢の解析

細菌を唾液や歯周ポケットから採取し、ゲノムDNAを丸ごと抽出し、次世代シークエンサーを使って、その遺伝暗号を解読することで生息する細菌集団(口腔細菌叢)を明らかにします。100種類を超える細菌を丸ごと検出できます。その細菌集団の組成を全体の割合にして評価することができます。

赤に近い色ほど歯周病で要注意な細菌たちです。細菌たちのバランスをみて、赤に近い色が少ないと健康な歯肉で、赤い近い色が多いと重症の歯周病です。

多い細菌の種類がわかるとその細菌に効く抗菌薬(抗生物質)を選択することもできます。1回の検査が自費診療で2万円(税抜き)で実施致します。

次世代シークエンサーを用いた腸内細菌叢の解析

口腔細菌たちのバランスの乱れが、腸内細菌たち(腸内細菌叢)のバランスの乱れに繋がり、いろいろな病気(動脈硬化症肥満2型糖尿病関節リウマチ非アルコール性脂肪性肝疾患がん)につながることもわかってきています。お口の状態を良好にすると病気の予防にもつながります。

便検査も同時に行うと腸内細菌たちのバランスもわかります。その場合は自費診療で3万2千(税抜き)とさせていただきます。検査や生活習慣の改善点について管理栄養士の無料電話相談できるサービスもあります。

歯周病原細菌

重要な歯周病原細菌を簡単にご説明いたします。

ポルフィロモナスジンジバリスPgII型線毛遺伝子を持っているものが歯周病原性が非常に高いと言われています。歯周病の関与オッズ比は44.4と言われています。オッズ比は1より大きいほど関与が強くなります。ポルフィロモナスジンジバリスPgの線毛遺伝子型を調べる検査も行っております。自費診療で1万2千円(税抜き)です。

特に歯周病の関与オッズ比が高い細菌は次の3つです。

ポルフィロモナス ジンジバリスPg オッズ比15.5
タンネレラ フォーサイシアTf  オッズ比13.3
トレポネーマ デンティコラTd オッズ比21.6

分子生物学がお好きな方はこちらをどうぞ

1. 口腔内細菌の多様性

口腔内には約1200種類の細菌が存在し、腸管よりも多様である。そのうち約30%は未だに名前や姿が不明。平均して一人の口腔には約250種類が存在し、そのうち33%が共通の細菌(コアマイクロバイオーム)である。

2. ディスバイオーシス

宿主の体調や生活習慣の変化、抗菌薬の服用などがきっかけで、常在細菌のバランスが崩れ、異常な細菌構成になること。健康な状態をシンバイオーシスと呼ぶ。

3. 病原因子の発現差異

同じ歯周病原細菌でも患者によって病原因子の活動が異なり、細菌の存在が必ずしも病因と結びつかない。

(参考)下記のものが歯周病原細菌と考えられている。
レッドコンプレックス
①Polyphyromonas gingivalis(Pg菌)
・オッズ比15.5(歯周炎の発症への関与、1より多いほど関与は高い。)
・血液(ヘミン)、タンパク質を栄養とする。
・非運動性グラム陰性偏性嫌気性菌
・上皮細胞の中に侵入でき、宿主の抗体による攻撃を回避できる。
・抗体を破壊する能力もある。
・細胞壁の外側が漿膜で覆われており、免疫システムから身を守っている。
・ジンジパインというタンパク分解酵素を持っていて、宿主の細胞を攻撃できる。
・線毛のタイプⅡが病原性が高い(オッズ比44.4)
・血液寒天培地を用いて培養すると、鉄代謝により黒色のコロニーを形成する。
・黒色色素産生性。糖類を代謝できないという特徴をもつため、生育にはもっぱらタンパク質やアミノ酸を要求する。それらを代謝した際に生じる有機酸などが悪臭を示し、歯周病の患者に特有な口臭の一原因となる。
・コラゲナーゼー歯周組織のコラーゲンを溶解させ病巣を拡大させる
・スーパーオキシドムターゼを出すー食細胞の産生する活性酸素を分解する酵素
・毒性の強い内毒素とトリプシン酵素ー歯周組織を破壊するを一つの菌体でダブルで持っている
・VSC(Volatile Sulfer Compounds)産生酵素を持つ。つまり口臭の原因になる硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドを出す。
・低体重児出産の原因菌
②Tannerella forsythia (Tf菌)
・オッズ比21.6
・非運動性グラム陰性偏性嫌気性桿菌
・血液(ヘミン)を栄養とする
・血液寒天培地で点状コロニーを形成するが、Pg菌より小ぶりで、育つまでかなり時間が必要
・Fusobacterium nucleatum(Fn菌)と仲が良く、一緒に培養すると増殖が速い。
・タンパク質分解酵素など病原因子を持っている。
・トリプシン様プロテアーゼ、ヘマグルニチン、FDF、BsapAタンパクなどが病原因子として調べられている。
③Treponema denticola(Td菌)
・オッズ比13.3
・らせん菌スピロヘータ
・マクロファージの提示を邪魔したり、抗体やコラーゲンのようなタンパク質を分解する能力がある。
・TYGVS培地などで研究が進んでいる
・Pd菌と仲が良い
・Fn菌と仲が良く、急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ANUGエイヌグAcute necrotizing ulcerative gingivitis:fuso-spirochetal infection)の症例で両者が検出されることが多い。NUGは歯肉炎にしては珍しく痛みを伴う。第一世界大戦のときに兵士の間で流行した。
・難治性歯周炎の指標。
・免疫応答抑制成分。特異抗体が産生されない。
・トリプシン様酵素タンパク分解酵素を出す
・VSC産生酵素を持つ。

オレンジコンプレックス
①Prevotella intermedia( Pi菌)
・非運動性グラム陰性偏性嫌気性桿菌
・妊娠中に歯肉溝滲出液中で女性ホルモンエストロゲンやプロゲステロンが増えてくると、増殖する。
・妊娠性歯肉炎の原因菌。
・莢膜を持つ。
・内毒素を持つ。
・リパーゼ(脂質の分解)、プロテアーゼ(抗体やコラーゲン線維などのタンパク質の分解)を持つ。
・βラクタマーゼ遺伝子を持ち、βラクタム薬(ペニシリン系やセファロスポリン系)が効きにくい。
・VSC産生酵素を持つ。
②Fusobacterim nucleatum(Fn菌)
・非運動性グラム陰性偏性嫌気性桿菌。
・糖分解能がなく、酪酸を発生し、悪臭を発生させる。
・細長い紡錘状の細菌である。
・Fn菌が芯となり、いろんな細菌と共凝集する。菌体表層のレクチン様物質がこの共凝集に関わっている可能性がある。
・急性壊死性潰瘍性歯肉炎ANUGの原因菌でTreponema denticolaも一緒に見つかる。
・根面上の細菌群ともレッドコンプレックスとも手を繋ぐことができる仲介菌。
・鞭毛は持たないため、運動性はない。
・莢膜もないので、防御が弱い。
・宿主細胞に侵入する能力を持つ。
・マクロライド系抗菌薬エリスロマイシンに固有耐性がある。
・大腸癌の発症と密接に関係する。
・低体重児出産の原因菌の一つ。
③Campylobactoer rectus(Cr菌)
・グラム陰性桿菌
・微好気性〜通性嫌気性
・鞭毛を持っているので運動性はあるが、その運動性は低い。
・VSC産生酵素を持っている。
・低体重時出産の原因菌の一つ。Igf2遺伝子のプロモーター領域のメチル化を引き起こす。細菌感染で宿主のDNAが修飾されるという初めての報告である。

グリーンコンプレックス
①Aggregatibacter actinomycetemcomitans(Aa菌)
・a型の血清型serotypeは悪性度が低い
・b型の血清型が侵襲性歯周炎の原因とされた
・クローナル型JP2の結成型が病原性が高い
・非運動性グラム陰性通性嫌気性桿菌
・細胞膨化致死毒素CDTを持つ。
・毒性の強い内毒素を持つ。
・外毒素の白血球毒素ロイコトキシンleukotoxinを出し白血球を致命的な障害を起こさせる
・コロニー flower-like morphologyを作る。
②Eikenella corrodens
・グラム陰性桿菌。
・微好気性
・発育にヘムを要求する。
・歯周炎からの胸膜炎、髄膜炎、敗血症、動物咬傷後の膿瘍、軟部組織感染症を惹起する。
その他
①Corynebacterium matruchotii
・強い菌体石灰化能力を持つ。唾液の中のカルシウムを大体2週間ぐらいで吸収し歯石に変えてしまう。
・カルシウム結合タンパク質は20種類存在し、そのタンパク質の多くは産生タンパク質である。
・古いデンタルプラークにみられる芯の菌となる。
②Capnocytophaga canimorsus
・人獣共通感染症。イヌネコの咬傷などから、感染する。
・グラム陰性桿菌
・通性嫌気性。
・スーパーオキシドムターゼを出すー好中球がだす殺菌成分活性酸素を無効化する
・トリプシン酵素、内毒素を出すー歯周組織破壊
・vsc産生酵素を出す

レッドコンプレックスはLate colonizerと言われる。他のコンプレックスはearly colonizerと言われ、善玉菌が多い。根面にearly colonizerが最初に集まり、後にlate colonizerが高層化し、病原性が高くなり、こうなると高病原性バイオフィルムという。細菌バイオフィルムは細菌が生み出す多糖類で、EPS(細胞外多糖類extracellular polysaccharide、細胞外高分子化合物extracellular polymeric substance)といわれる。EPSはwater channel(歯肉溝滲出液)があり、栄養物質が流れてきたり、老廃物を捨てることができる。また、EPSは白血球や抗体の攻撃から防御できる。細菌同士はクオーラムセンシングquorum sensingでお互いに連絡をとっている。仲間がどれくらいいるのかを把握している。連絡に使うのはAI(auto inducer)と呼ばれる物質である。このAIは菌種によってことなることがわかっている。そして、一定数(クオーラム)まで増えたと感じたら(センシング)、次なる行動を起こす。AIでバイオフィルム形成のスイッチが入ることがある。一定数になったら、EPSを作り出して、細菌バイオフィルムができ上がっていく。細菌バイオフィルムは、一旦できあがってしまうと抗菌薬が効かない。機械的除去を行わなければ、細菌バイオフィルムは除去することができない。

4. 口腔内細菌と全身の健康

口腔内細菌叢のバランスの乱れが虫歯や歯周炎を誘発し、腸内細菌叢のディスバイオーシスが代謝疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患を引き起こすことがある。口腔の健康状態は全身の健康にも影響を与える。

(実験医学2021年10月号 Vol.39 No.16口腔内細菌叢参照)

5. 解析手法

従来の方法では培養できる細菌は全体の数%に過ぎなかったが、次世代シーケンサー(NGS)の登場により、メタゲノム解析が可能になり、人体や環境中の細菌叢を把握できるようになった。メタゲノム解析では、抽出したDNAをPCRで増幅してからNGSで解析し、細菌種の組成や多様性、頻度を把握する。この方法により、細菌叢の機能と健康状態との関連が解明できる。メタ16S解析は、16S rRNA遺伝子のアンプリコン解析を用いて細菌の系統組成を明らかにし、細菌種の同定ができる。

細菌の16S rRNA遺伝子  (rDNA)のアンプリコン解析から細菌の系統組成を明らかにする方法で, PCRは系統間の定常領域をプライマー配列にして可変領域 (V3-V4領域)を解析する。100万種以上の細菌配列が登録済みなので,種の同定に直結させることができる。