リグロスは、歯周病の手術に使われるとろみのある液体の薬です。
歯科では分子生物学を応用した数少ない治療法の一つです。
歯を支える骨を垂直的に失った場合、近い将来歯を失う可能性が高いです。
そこに骨を再生して、歯がしっかりして若返ります。歯周組織の回復力を上げる治療です。

現時点ではあまり実施されていないのが現状です。それはブラッシング技術を上げて、口腔衛生状態を良好に保たなければならないこと、技術的に難しいことなどが要因と考えられます。

ブラッシング指導、歯石除去を十分に行ったのち、適応の部位にリグロスを用いた手術になります。歯ぐきを開いて、歯石や不良肉芽を除去して、リグロスを骨の失った部位に流し込むといった手術です。適応でない場合(骨の形や深さで判断します)、リグロスを入れないこともあります。1回の手術は、1時間程度で終わります。

メリット:
保険適用
抜けそうな歯の骨、セメント質、歯根膜を再生することができる

デメリット:
手術する
治らない可能性がある
1〜2mm程度の軽度の歯肉退縮(歯ぐきが下がる)とそれに伴う知覚過敏

フィブラストスプレーが同じ成分の先行医薬品です。床ずれの薬です。有効性、安全性が保証されています。

ここからは、分子生物学が好きな方がご覧ください。
リグロスは、ヒトbFGFです。bFGFは、細胞外に主に存在するタンパク質です。basic fibroblast growth fator :塩基性線維芽細胞増殖因子という名前です。普段は細胞外でヘパリンと結合したりしているようです。接着分子インテグリンとも結合することもあります。細胞膜に存在する受容体と結合して、受容体が下流のシグナルを発動して遺伝子を発現して様々な機能を発揮します。場所によりその機能も異なります。歯周組織で発現する機能も決まっています。それがリグロスの作用と考えられます。添付文書には、歯周組織の未分化間葉系細胞、歯根膜細胞、血管内皮細胞等に対して、細胞増殖及び細胞遊走の促進作用等を示し、また、これらの作用により血管新生を伴って増殖した未分化間葉系細胞及び歯根膜細胞は骨芽細胞等へ分化し、歯槽骨及び結合組織性付着を再構築することで、歯周組織が再生されると記載されています。

未分化間葉細胞は成体幹細胞adult stem cells(組織幹細胞:大人になっても存在している細胞の赤ちゃんみたいなもの)のことです。大人になっても残っている細胞で、増殖したり、いろいろな細胞に分化することができる細胞です。受精卵のときには全てに分化できる細胞のみでしたが、大人になると分化している細胞が多数派を占めて、分化の程度が浅い細胞が少なくなっていきます。

製剤としてこのヒトbFGFたんぱく質を量産するときには大腸菌Escherichia colli(E.coli)に量産させていると考えられます。こういうものをリコンビナントたんぱく質と言います。大腸菌の細胞内のプラスミドにこの遺伝子を含ませて(遺伝子導入して)大腸菌に量産させています。プラスミドに遺伝子を含ませる技術が遺伝子工学の基本となる技術です。大腸菌は便にも含まれる細菌で増殖能力が高いです。大腸菌という下等な生物にヒトbFGF遺伝子のたんぱく質を作らせるより、昆虫のカイコや哺乳類の細胞に作らせる方が、よりヒトのたんぱく質に近い機能を持ちます。糖鎖付加など翻訳後修飾(PTM)が付いてくるからです。将来的にそのような作らせ方もするようになるかもしれません。自分自身はBMP7、USAG-1、転写因子のCebpβやRunx2といったタンパク質が歯の形態形成にどのように関わるかをテーマにした研究をしていましたが、これらが近い将来、歯科領域において、臨床応用されるのを期待しています。歯の大きさの調節に関わる内容で学位を頂いています。