大学在籍中分子生物学を少し勉強しております。
分子生物学の視点で歯科治療を見てみたいと思います。歯科医学において、分子生物学の知識が生かせる範囲は多岐にわたります。分子生物学は分子レベルで生物の細胞のふるまいを解明する学問です。う蝕・歯周病原細菌やヒト細胞のふるまい、院内感染に関わる細菌・ウイルスを理解していきたいと考えております。
少しずつ詳しくして参ります。

普段の治療にもこの考え方が生かせると考えております。専門の先生方からも絶えず学んでいきたいと考えております。適宜引用論文も記載いたします。ゆっくりと作成を進めますので、内容に不備がありましたら、申し訳ございません。適宜リニューアルいたします。

研究は廃業しておりますので、臨床に生かせる知識として情報共有したいと思っております。現在の活動は大学組織や研究機関と関係ありません。
大腸菌を含めた細菌の基本構造を示します。歯科は細菌学の要素が強いように思っております。大腸菌はグラム陰性菌です。

引用した図はLS-EDI生命科学教育用画像集http://csls-db.c.u-tokyo.ac.jp/index.htmlから引用しております。

疑問1 リグロスで使われているbFGF(FGF2)とは何だろうか?ヒトbFGFはどのように量産されているのか?

解答:

bFGFは細胞外に主に存在するタンパク質です。basic fibroblast growth fator :塩基性線維芽細胞増殖因子という名前です。普段は細胞外でヘパリンと結合したりしているようです。接着分子インテグリンとも結合することもあります。細胞膜に存在する受容体と結合して、受容体が下流のシグナルを発動して遺伝子を発現して様々な機能を発揮します。場所によりその機能も異なります。歯周組織で発現する機能も決まっています。それがリグロスの作用と考えられます。

Review of the role of basic fibroblast growth factor in
dental tissue-derived mesenchymal stem cells, Biomedicine Vol. 9 No. 3 June 2015; 271 – 283

添付文書から引用すると、新生骨の形成を促進させるとともにセメント質及び歯根膜の形成を促進させ、結合組織性付着の形成量を増加させることです。添付文書の作用機序を引用致します。歯周組織の未分化間葉系細胞、歯根膜細胞、血管内皮細胞等に対して、細胞増殖及び細胞遊走の促進作用等を示すとあります。また、これらの作用により血管新生を伴って増殖した未分化間葉系細胞及び歯根膜細胞は骨芽細胞等へ分化し、歯槽骨及び結合組織性付着を再構築することで、歯周組織が再生されると記載されています。

未分化間葉細胞は成体幹細胞adult stem cells(組織幹細胞:大人になっても存在している細胞の赤ちゃんみたいなもの)のことです。大人になっても残っている細胞で、増殖したり、いろいろな細胞に分化することができる細胞です。受精卵のときには全てに分化できる細胞のみでしたが、大人になると分化している細胞が多数派を占めて、分化の程度が浅い細胞が少なくなっていきます。

リグロスの先行医薬品としては、フィブラストスプレーがあります。褥瘡、皮膚潰瘍に用いられます。その部位での働きは、線維芽細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞及び表皮細胞など創傷治癒に関わる種々の細胞に対して遊走や増殖促進作用を有しております。このことで、皮膚や皮下組織でのbFGFの働き方がわかります。また、臨床試験において褥瘡、皮膚潰瘍に対する有効性及び安全性が確認されております。http://fiblast.jp/howto.html 科研製薬ホームページより引用

ヒトbFGF(FGF2)の蛋白構造はこのようなものです。

製剤としてこのたんぱく質を量産するときには大腸菌Escherichia colli(E.coli)に量産させていると考えられます。こういうものをリコンビナントたんぱく質と言います。大腸菌の細胞内のプラスミドにこの遺伝子を含ませて(遺伝子導入して)大腸菌に量産させています。プラスミドに遺伝子を含ませる技術が遺伝子工学の基本となる技術です。

大腸菌は便にも含まれる細菌で増殖能力が高いです。大腸菌という下等な生物にヒトbFGF遺伝子のたんぱく質を作らせるより、昆虫のカイコや哺乳類の細胞に作らせる方が、よりヒトのたんぱく質に近い機能を持ちます。糖鎖付加など翻訳後修飾(PTM)が付いてくるからです。将来的にそのような作らせ方もするようになるかもしれません。

疑問2 虫歯の発生に関わる細菌は何だろうか?

解答:
う蝕原因菌を列挙します。
Streptococcus mutans ストレプトコッカス ミュータンス
Streptococcus sobrinus ストレプトコッカス ソブリヌス
グラム陽性菌です。
砂糖の含まれた食物を摂取すると、ショ糖を原料にして菌の産生する酵素により粘着性の多糖体(ムタン=グルカン)をつくります。グルカンが形成されると、歯の表面で他の口腔細菌とともに塊を形成し、これがプラーク(バイオフィルム)と呼ばれます。
乳酸桿菌 Lactbacillus ラクトバシラス
グラム陽性菌です。乳酸などの酸を酸性します。

疑問3 歯周病に関わる細菌はどのようなものか?
どのような分子機序(メカニズム)で歯槽骨が吸収されるのだろうか?

解答:
歯肉縁上プラークには通性嫌気性菌(酸素があってもなくても発育できる)が多く、グラム陽性菌が多いです。
グラム陽性菌とグラム陰性菌の違いは細胞壁のちがいです。グラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層に覆われています。一方でグラム陰性菌はペプチドグリカン層は薄く、その外側に外膜という構造があります。外膜はリポ多糖(Lipopolysaccaride:LPS)とリン脂質からできています。LPSは細胞壁にあり細胞内にあるため、内毒素といわれます。

wikipediaより引用

口腔常在細菌で一番多いのが、Actinomycesesアクチノマイセスです。グラム陽性菌です。歯周病患者では減少します。

歯肉縁下プラークには偏性嫌気性菌(酸素なし発育できる)が多く、グラム陰性菌が多いです。
歯周病原細菌を列挙致します。
①Porphyromonas gingialis ポルフィロモナス ジンジパリス
米状のかたちです。
歯周病の悪性度の高さと指標となります。少数でも中心的な役割を果たす細菌であり、免疫系から身を守る働きもあります(詳しくはnihms-599052)。揮発性硫化化合物(Volatile Sulpher Compounds)VSC産生酵素を持ち、悪臭を放ちます。コラゲナーゼやトリプシン様酵素、IgAやIgGなどの免疫グロブリンを切断するプロテアーゼを持ち、歯周病の発症と進行に関わります。毒素LPS(lipopolysaccharideリポ多糖)が微生物抗原を認識するToll様受容体(TLR)に認識され、そのシグナルは細胞内で伝達され、結果として炎症性サイトカインCytokineやケモカインChemokineは線維芽細胞やマクロファージなどの細胞を刺激して、そこから破骨細胞分化因子(RANKL)を分泌させます。前破骨細胞Preosteoclast(骨を吸収させる細胞に分化する前段階の細胞)上にある受容体とRANKLが結合すると、活性化した破骨細胞Osteoclastとなり、歯槽骨が吸収され、炎症反応がメタロプロテアーゼMMP(Matrix metalloproteinase)を産生することで、歯周組織のコラーゲンやプロテオグリカン、エラスチンなどの細胞外マトリックスを分解し、歯周病が進行します。

ここで、一般的な免疫について説明します。自然免疫と獲得免疫の概念図をお示しします。自然免疫は細胞性免疫ともいいます。細菌などの細胞外寄生体に対して重要です。マクロファージのToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)と呼ばれるタンパク質が病原体に共通の構造に反応することによって発生します。獲得免疫 は体液性免疫ともいいます。抗体(免疫グロブリン)が重要な役割を持ちます。

歯周病の分子メカニズムの予想図をお示しします。

 2010 Dec;89(12):1349-63. doi: 10.1177/0022034510376402. Epub 2010 Aug 25.Destructive and protective roles of cytokines in periodontitis: a re-appraisal from host defense and tissue destruction viewpoints.

②Tannerella forsythia タンネレラ フォーサイシア
歯周病の悪性度の高さの指標となります。

③Aggregatibacter acinomycetemcomitans アグレガティバクター アクイノミセテムコミタンス
枝豆、落花生のような形です。侵襲性歯周炎に関わります。内毒素と外毒素ロイコトキシン(細菌が体の外に放出する)を持ちます。

④Prevotell intermedia プレボテラ インターメディア
エストロゲンによって発育促進する。妊娠性歯肉炎に関わります。スピロヘータと仲良しで壊死性潰瘍性歯肉炎で一緒に増えます。vsc産生酵素を持ちます。

⑤Treponema dentiola トレポネーマ デンティコラ
螺旋菌(スピロヘータ)で。歯周病の悪性度の高さの指標となります。位相差顕微鏡で見ることができます。

⑥Fusobacterium nuclreatum フゾバクテリウム ヌクレアタム
ミミズのような形です。スピロヘータと仲良しです。歯肉炎、壊死性潰瘍性歯肉炎に関わります。

⑦Campylobacter rectus カンピロバクター レクタス
ソーセージのような形です。vsc産生酵素を持っています。

⑧Eikenella corrodes オイケネラ コロデス
米のような形です。

⑨Vorynebacterium matruchotii コリネバクテリウム マツルショティイ
歯石産生に関わります。

⑩Canocytophaga canimorsus カプノサイトファーガー カニモルサス
細長い丸の形です。人獣共通感染症です。犬猫の咬傷などから感染します。vsc産生酵素を出します。トリプシン様酵素、内毒素を出し、歯周組織を破壊します。

これらはPCR法によって同定できます。定量RT-PCR法を用いれば、細菌の数、割合などを把握することができます。治療前と治療後でどれだけ変わったかをみるのも面白いかもしれませんが、歯石除去や抗菌薬投与をすれば、まず減るでしょう。

歯周基本治療の手法、歯周外科手術による細菌の減少の仕方の違いや細菌の薬剤感受性をみたりするのは一つの見方になるかもしれません。

疑問4 人工骨が骨に代わるメカニズムはどのようなものか?
解答:
補填した人工骨と患者の幹細胞や骨芽細胞が作る新生骨が欠損部を埋めてくれると考えます。人工骨はハイドロキシアパタイトHA、りん酸三カルシウムβ-TCP、炭酸アパタイトがあります。したがって、将来的には、幹細胞の移植による骨再生治療も考えられます。

骨再生の初期では出血によって形成された血腫が重要な役割をします。血腫中の血小板に由来するTGF-βやPGDF(血小板由来増殖因子)が、引き続いて起こる肉芽組織の増えることに関わります。この肉芽組織には間葉系幹細胞MSC(mesenchymal stem cellメゼンカイマル ステムセル)が含まれています。

さらに時間が経過すると、間葉系幹細胞MSCから骨芽細胞、軟骨細胞への分化が起こり、未熟な骨(線維骨)、軟骨が形成され、仮骨形成が始まります。

MSCから骨芽細胞分化するときに関わる転写因子です。

軟骨細胞の分化はSoxソックスファミリーの転写因子(Sox5, Sox6, Sox9)で制御されています。Sox9はMSCから軟骨細胞への分化の決定に重要で、その後の軟骨細胞の分化も制御している。Sox5、Sox6はSox9で誘導され、軟骨細胞の分化に関与している。Runx2は軟骨細胞の肥大化に重要な役割を果たしています。

時間の経過とともに、仮骨部は軟骨または骨に特徴的な細胞外基質を産生し、成熟します。その後、軟骨性仮骨部の肥大軟骨は骨組織に置換され、軟骨内骨化が進行し、骨折の治癒が完了します。

骨のリモデリングBone turnover(Remodeling)について説明します。
骨には、静止している場合には重力負荷、噛むことなど機能している場合には力学的負荷が常にかかっています。そのような負荷がかかっている部位の骨には微小な破折や骨折がみられます。骨細胞がこのような微小骨折を感知し、その情報を破骨細胞に知らせて微小骨折部の骨を吸収させ、それに連動して骨芽細胞に骨形成が誘導され、その部位の骨が修復されます。

骨芽細胞の産生するマクロファージコロニー刺激因子M-CSF、RANKL(Receptor activator of NF-κB ligand、ランクル)、OPG(osteoprotegrerinオステオブロテオグリカン)などが破骨細胞の分化、生存、活性化に重要な役割を果たしています。

まず血管新生が起こり、血管内に存在する血液幹細胞から破骨細胞が形成され、その破骨細胞により破折、骨折により生じた不要な骨が吸収、除去される。不要な骨が除去されるとそれに呼応して間葉系幹細胞がその部位に走化性に侵入し、増殖後、骨芽細胞に分化します。そして骨芽細胞による新しい骨が形成されます。

若い成人では、不要な骨の吸収に約2週間、その後に新しい骨が形成されるまでには8~10週間かかります。

疑問5 院内感染に関わる細菌、ウイルスはどのようなものか?
解答:血液・体液を介して感染するウイルス、複数の抗菌薬に耐性を持つ多剤耐性菌などが考えられます。

ウイルスは生物なのか不明なものです。核酸(DNAまたはRNA)とタンパク質(殻や被膜)だけでできています。核酸の形態は1本鎖のものや、2本鎖のものもあります。

2本鎖直鎖型DNAウイルス:アデノウイルス、ヘルペスウイルス
2本鎖環型DNAウイルス:パルボウイルス

1本鎖+鎖RNA(ウイルスゲノム自体がmRNAとして機能し得る) レトロウイルス、風疹ウイルス、SARAコロナウイルス、ノロウイルス
1本鎖−鎖RNA(mRNAと相補的な塩基配列のためそのままではmRNAとして機能できない。これをRNA依存性RNAポリメラーゼによって+鎖に転写して機能する。):麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、エボラ出血熱ウイルス

このRNAは誤ったコピーが発生しやすく、これを変異といいます。 インフルエンザウイルスは常にこの変異が起こっており、人の1000倍の確率で起こっているといわれています。さらに、増殖スピードは速く、1個のウイルスは1日で100万個以上に増殖します。インフルエンザは違う型のインフルエンザとの遺伝子の組み替え、突然変異などで新型を生じさせています。インフルエンザは人獣共通感染症です。被膜(エンベロープ)にHヘマグルチニン(赤血球凝集素)1〜16(抗原性により分類した種類)、Nノイラミニダーゼ1〜9(抗原性により分類した種類)を持ちます。

ヒトインフルエンザ  H1N1

トリインフルエンザ H5N1

ブタインフルエンザ H1N1

ウイルスは細胞に感染して生きています。
例としてレトロウイルスの生活環です。レトロウイルスベクターを用いて遺伝子を細胞に導入する図です。

ウイルスは生きた細胞に感染し、細胞が持つ遺伝子発現の様々な装置を使って、自分自身を複製させ、数時間後に多数の子ウイルスが細胞を壊してでてきます。ヒトの感染症の多くはウイルスです。ウイルス感染から生体を守るたんぱく質にはインターフェロンがあります。α、β、γの3種類があります。

最寄りの保健所からの指導を受けた内容です。
空気感染:
麻疹、水痘、結核、SARS、高病原性鳥インフルエンザ、ノロウイルス

飛沫感染:
侵襲性B型インフルエンザ菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、重症細菌性呼吸器感染症、ジフテリア、マイコプラズマ肺炎、百日咳、肺ペスト
ウイルス感染症
アデノウイルス、ムンプス(流行性耳下腺炎)ウイルス、パルボウイルスB19、風疹ウイルス
新興感染症
重症急性呼吸器症候群SARS、高原病性インフルエンザ

接触感染:
MRSA、Clostridium difficile、Acinetobacterbaumannii、VRE、MDRP
RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、ノロウイルス、腸管感染症ウイルス
ジフテリア、単純ヘルペスウイルス、膿痂疹、疥癬、蚤、乳幼児のブドウ球菌、帯状疱疹、PVL+

流行性角結膜炎:
ウイルス性出血熱(エボラ、ラッサ、マールブルグ、クリミア・コンゴ出血熱)

疑問6 歯の発生に関わる遺伝子はどのようなものがあるのだろうか?
解答:
増殖因子や転写因子(クロマチンの緩みをつくったり、遺伝子(塩基配列)の特定の部位に結合する働きをするタンパク質)、ホメオボックス遺伝子(位置や形づくり具体的には歯種などにかかわる遺伝子群)の発現が順序立てて発生段階に合わせてタイムリーに、組織特異的(発現場所も決まっている)行われることで歯の形態が決まって発生していきます。遺伝子は最初クロマチンとして折りたたまれていますが、転写因子でほぐされて、遺伝子(核酸の塩基配列)がむき出しになります。そこで、転写翻訳(セントラルドグマ)と遺伝子の発現(たんぱく質を作ること)が始まります。
代表的なものをあげます。
増殖因子: BMP FGF Wnt
転写因子: Runx2
ホメオボックス遺伝子: Msx

歯の細胞の由来をまとめた図です。

歯の細胞系譜をお示ししました。